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乞巧・星の座飾りのものがたり~1~

なぜ梶の葉?


嘉門工藝の七夕飾りには、たくさんの制作工程があり、それぞれに意味をもっています。

梶は、神様に捧げる神木として、また、紙の材料として、古代より尊ばれてきた植物です。
梶の葉の裏側に生えたやわらかなうぶげは墨を吸収しやすく、文字を書くこともできます。

  

『暮らしのならわし十二か月』によると、七夕の朝には、里芋の葉に降りた露で墨をすり、七枚の梶の葉に歌をしたため、字の上達を願う慣習があったそうです。
これは古代中国の七夕行事「乞巧奠(きこうでん)」が、技芸の上達を祈る祭りであることに由来しているとのこと。

紙を神とかけ、梶を(天の川をわたる舟の)舵とかけたという説もあるほどに、梶の葉は古来、七夕の象徴とされてきました。

美しい七夕飾りをつくるため、嘉門工藝では15年前、門前に梶の木を植えました。
ひじょうに成長が早く、数年後にはたくさんの葉から美しい葉をえらぶことができるようになり、七夕飾りの制作をスタートしたのです。





乞巧・星の座飾りのものがたり~2~

こだわりの職人たち


嘉門工藝の季節の飾りには、さまざまな職人が関わっています。
梶の葉も、組み紐も、リボンも布も、すべて専門の職人にお願いしていて、いちから作っていただくこともしばしば。
今回は前回に引き続き、梶の葉についてです。

門前の梶の木の、たくさんの葉の中から選びぬいた美しい葉を、信頼のおける造り花師さんにお送りし、その葉の金型を作っていただきました。
その繊細な形にあわせて、葉脈となる針金を手作業でつけてくださっています。

たくさんの造り花が嘉門工藝に届きましたら、ひとつひとつ手作業で丸みをつけて組み合わせていくのですが、それはまだ遠い話。
梶の葉、組み紐、リボン、布の、すべての合わせが決まるまで、試作に試作をかさね、最終形に至るまで10年以上かかりました。


これ! という形ができるまでは外に出さない。嘉門工藝のこだわりです。





乞巧・星の座飾りのものがたり~3~

五行にちなんだ五色の絹布


五色の絹布は、陰陽五行思想に基づき、この世界の五大要素である木火土金水をあらわしていると言われています。
この五色は正色と呼ばれ、五行を揃えて厄除けにするならわしが折々の伝統行事に存在しています。


七夕は星にまつわる行事ですので、宇宙の摂理のおおもととなるものを表した五色は欠かすことのできないものとされてきました。

美しい七夕飾りをつくるため、五色をどう表現するかは大きな課題でした。
最終的に、厄除けと美しさを兼ね備えた布……透明感のある、風がぬけるようなイメージの、しなやかな絹を選ぶこととなりました。






乞巧・星の座飾りのものがたり~4~

糸から組みあげられる紐


嘉門工藝であつかう紐に、既成のものはひとつもありません。
すべて1本1本の細い糸から、さまざまな色の糸を合わせて指定し、組んでいただいております。

今回の七夕飾りで用いた紐は、銀糸一色で指定して、伊賀組紐さんに組んでいただきました。

    

写真は、伊賀平井組紐さんが、1本1本の銀糸から組み紐をつくってくださっている様子です。

やわらかく垂れる繊細な五色の絹布と、きりりと結えた銀糸の組み紐とのコントラスト、そして両者をつなぐ梶の葉が、美しい七夕飾りを生みました。





乞巧・星の座飾りのものがたり~5~

願いによりそう「叶う結び」


「叶う結び」とは、結び目を表から見ると「口」、裏から見ると「十」に見える結び方で、「叶」の字に読めることから、縁起の良い結び方として古来より親しまれてきました。


「願いが叶いますように」との思いから、願掛けやお守りにも広く用いられております。

七夕の元祖である「乞巧奠(きこうでん)」は、技芸の上達を祈る祭りです。
神木とされる梶の葉に、墨で文字を直接したため、はるかな星に思いを馳せてお供えしました。

美しいものには、すべて意味がこめられていますね。





乞巧・星の座飾りのものがたり~6~

職人たちの結晶


職人たちからすべてのものが届くと、今度は監修者の長田なおさんたちがそれらを組み合わせて仕上げます。

五色の絹布を、有職文様のひとつである立涌文様の裂(きれ)に縫いつけ、銀糸の組み紐を「叶う結び」で結わえ、裂にとおして「あわび結び」に結んでから梶の葉の造り花を縫いつけ、大切に桐箱に収めて完成です。

すべてが繊細に作られたものですので、最後の仕上げにはたいへんな神経をつかいます。

嘉門工藝の思いに応え、職人たちが協力してくださった結晶としての「乞巧・星の座飾り」。
どうぞお手元でお楽しみください。



(株)嘉門工藝 村瀬亜里
監修: 長田なお
参考文献: 文・白井明大/伝統文化監修・長田なお『暮らしのならわし十二か月』(飛鳥新社)

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